我が儘でさえも
(CP:リカアン)
ねえ、あなたにしかこんなこと、言わないでしょう?私。
「・・・・・・・・・・・・・・セレーナ」
「・・・・・・・・・・」
まただんまり。さっきからこのやりとりを何度繰り返したことか。
そう思ってリカルドは数歩先を歩く自分より頭ひとつ分程小さい彼女の背を、溜息を吐きながら見つめた。
呼んでも返事もしなけりゃ振り向きもしない。
買い物をしに宿から外へ出たはいいが、アンジュは出かけた直後から機嫌が悪かった。
「・・・・・・・・・」
ゆらゆらと揺れる濃い空色の髪。
ふと、彼女の名前が頭によぎったが、音に出して呼ぶには勇気もいったし、全く知りもしない町の人たちの目がリカルドの口が開くことを阻んだ。
雇い主と雇われ傭兵。一緒にいるガキ共じゃあるまいし、更に気安く名前で呼び合う関係ではない。
そう、思う時点で自分が意識しているなんてことには、本人は全く気が付いていないのだが。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・あー・・・」
「・・・・・・?」
呼ぼうかと思った矢先に口から出た音はなんの言葉も意味もなさない声で。
しかし、たったそれだけのことで彼女が振り向いた。瞳に期待を宿しているのはきっと気のせいだ。否、そう思いたい。
「・・・・・・・セレ「呼んでくれないんですね」
「・・・・え?」
「名前、呼んでくれないんですね」
「・・・・・・・」
こんな我が儘、あなたにしか言わないっていうのに。
end