とある一夜のひみつ
(CP:リカアン)
パチパチ
きらきらと輝く星空の下、儚く光る星とは逆にめらめらと燃える炎の熱を感じながらアンジュは目を覚ました。
うっすらと開いた瞳に焚き木の炎の光を映して、炎をしばらく見つめたあと視線はひとりの人物へと移った。
今夜は野宿。次の目的地への道の途中だった。
旅を共にする仲間が深い眠りにつく中、たったひとりだけ眠りについていないひとを呼ぶ。
「リカルドさん」
「ん?」
瞼を閉じていた男が瞳だけをこちらに向けた。
「どうした?セレーナ」
「・・・・・いえ。『寝ないんですね』なんて無粋な質問をしてしまうところでした」
「ああ、仕事だからな」
「すみません」
「何故謝る?セレーナが謝る必要はないだろうに」
首を傾げて片眉を吊り上げる相手に、アンジュは体を「よっこいしょ」と言いながら起こした。
腕を組んでその腕の間に彼の相棒のライフルを抱え座り込んでいる姿勢は、どう見ても寝ているようには見えない。
彼は彼の言うとおり『仕事』をしているだけなのだ。自分の『護衛』を。
「安心しろ、職業柄寝ないことには慣れている」
「・・・だからエルと聖堂の図書室で寝てたんですか?」
「・・・・・・・」
「そうなんですね」
「・・・・・・わかったならあのことについては許してくれないか」
視線を気まずそうに逸らす彼に、仕方のないひと、と心の中で思うと同時にまた心の中で感謝する。
大切な睡眠時間を削ってでも、このひとは自分をまもってくれる。
それは彼が契約に忠実だからか、それとも何か別の感情からくるものなのかはわからなかったが、アンジュはただ彼が一生懸命になってくれることが嬉しかった。
それと同時に、それ故に無茶をするのではないか、という恐怖も拭えなかったが。
ゆっくりと立ち上がり彼の傍に座り込むと、彼は不思議そうな顔をした。
「何をしている」。まさにそんな顔だった。
「・・・・・・・」
「私起きてますから、リカルドさん、仮眠を取ってはいかがですか?」
「気遣いは無用だ。それよりも寝ていろ」
「目が覚めてしまいました」
「・・・・それでもいいから「それと、起きているリカルドさんが気になって眠れません」
「・・・・・・・」
「仕事熱心なら、体を休めることも覚えた方がいいと思います」
見上げて見つめれば、彼は困ったような顔をして瞼を閉じると溜息を吐いた。
組まれた腕はそのままだ。どうやら素直に寝てくれる気配はない。むっとアンジュは咄嗟に彼の相棒へと腕を伸ばした。が、それは彼の手が先に相棒を取ることによって阻止されてしまった。
「何をする」
「寝てください」
「困った雇い主だな。護衛を頼んだり、寝ろと言ったり」
「あら、私が貴方の雇い主だということはわかっているんですね?なら、雇い主の意向に従ってください。寝てください」
「寝てください」を強調するように強く言うアンジュに、リカルドはまたもや溜息をつく。
雇い主から救った相棒を脇に置くと、降参と言ったように言葉を吐いた。
「俺は所詮雇われの身だ。わかった、雇い主の意向に従おう。だが、ほんの少しでも異変があったら知らせるんだぞ」
「はい」
そう言って地面に寝転がろうとしたリカルドの傍に、またもやアンジュが近寄る。
「・・・今度はなんだ」
「地面に寝てては疲れも取れないでしょう?膝枕してあげますから」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いらん」
「なんですかっ!?今の間!!ぷにぷにの太った太腿じゃ嫌ですかっ!?」
「誰もそんなこと言ってないだろう・・・」
頬を膨らませて睨んでくるアンジュにリカルドは本日何回目かもわからない溜息を今度は盛大に吐いた。
彼女が太っているのを気にしている(実際は言うほどでもないと思われるが)のは知っているが。
否定も肯定もしないリカルドに、更にアンジュは機嫌を悪くしたらしい。頬を膨らませてむっとしたその顔は、普段よりも彼女を幼くさせているように思えた。
「・・・・・・・・・・膝枕させてくれないと、寝させません」
「なんだそれは・・・」
「早く寝てくださいっ!」
「・・・・・・・・・・」
もう抵抗する気も失せて、リカルドは溜息を吐きながらアンジュの膝枕に頭を乗せた。
閉じていた瞼を開いて、リカルドは人生の今までにないほどに、後悔した。
「おやすみなさい、リカルドさん」
見上げた先には、きらきらと儚く光る星空と。
(こんなので、ゆっくり休めるものか・・・)
満足そうに微笑む優しい瞳をしたアンジュの顔があった。
end