自分勝手だなんて、わかっているの。

(CP:リカ←アン)
※少しダークシリアスめ。




自分勝手だなんて、わかっているの。
でも、どうしようもないんだからしょうがないじゃない。
そういう風に勝手に結論付けて片付けてしまう私もまた自分勝手。
だって、しょうがないじゃない。


すきなんだもの。




「リカルドさん」

「ん?」

ルカ君達との旅の途中、アシハラでの情報収集の途中、私はふと彼を呼んだ。
数歩先を歩く彼は私の呼びかけに立ち止まって一度で振り向いてくれる。
何か変なことがない限り、彼は私の呼びかけには必ず一度でこたえてくれる。
だって、そう。彼は私の従順なる傭兵。私は彼の正式なる雇い主。
それ以上でもそれ以下でもない、契約によって交わされた関係。でも、最近の私は違う。
何がどうなってこんな感情が生まれたのかなんてもう考えるのも疲れた。思うのだから仕方ない。
最近の私は、そこまでに毒されていた。

「どうした?セレーナ」

「例えば、の話です」

「・・・?」

いきなりわけのわからないことを言い始めた私に、彼はあからさまに顔を顰めた。
それはそうだ。だって、みんなと二組ずつに分かれて情報収集をしているのに、全く関係のないことを口走っているんだもの。
だけど、私が何を考えているか、心を読もうとするそんな彼の顔や眼差しさえ、焦がれる。

「・・・例えば?」

そうやって話を促してくれる、きちんと最後まで話を聞いてくれるところも、すき。
だけれど、それは私が雇い主、だから?

「例えば、私が貴方に仕事の依頼で、誰かを暗殺してくれと頼んだら、仕事熱心な貴方はそれをこなしてくれますか?」

「・・・・・・」

何を突拍子のないことを。
それを言いたげな彼の片眉を上げた、眉間に皺を寄せた彼の顔がなんだか可笑しくて。

「・・・・いるのか、そういう人が」

「いいえ、いません。例えば、の話だって言ったじゃないですか」

真に受けるだなんて、そこも彼らしい。
でも聞き返さずにはいられない彼のきもちもわかるの。
だって、こんなのいつもの私らしくないから。彼の知っている上でのアンジュ・セレーナは、こんなことを言う人物じゃない。
それを知っているからこそ、彼は聞き返してきた。
その事実すらもいとおしい。

「では、もうひとつ、例えばの話をしましょう」

「おい、セレーナ」

「お願いです、聞いてください」

「・・・・・・・・」

お願い、と言うと、このひとはとことん弱い。
それを知っていて言う私はなんて自分勝手な女。
何か言いたい言葉があったようだけれど、私がお願いと言うから我慢して口を閉ざしてくれる。

「またこれも私が貴方に仕事として依頼するとして、貴方はそれをこなしてくれますか?」
「・・・・・・例えば、なんだ」

何が言われるのか構えているような鋭い、でもどことなく優しさを持ち合わせた眼差し。
そう、貴方はやさしい。リカルドさん。

「例えば、私が貴方に私を殺してくれと、頼んだら。貴方は仕事熱心に私をころしてくれますか?」

私の口許は自然と笑みを浮かべていた。
きっと、この人の前で初めて一番の穏やかな微笑みを浮かべている。そんな自信があった。

「・・・・・・殺して、欲しいのか」

聞き返してくれる。そんな気全然無いのに。
きっと貴方は私を殺せないんでしょうね。でも、それはこの旅の仲間で情が湧くからかしら?
そうでなくても、私は貴方に躊躇って欲しい。
するどい、見つめただけて射殺せそうなその瞳。
ああ、その眼差しになら、その瞳で見つめてもらえるのなら。
その瞳を息が止まるその瞬間まで見つめていられるのなら。

「貴方にだったら、いいかもしれません」

「冗談も程々にしろ、セレーナ。悪ふざけが過ぎると怒るぞ」

「怒って、くださりますか?」

「・・・・・・心臓に悪い」

ねえ、もし、本当に頼んだとしたら。
貴方は躊躇ってくれますか?ねえ、リカルドさん。

「すきですよ、リカルドさん。貴方のそういうやさしいところ、全部が」

「それこそ冗談もいいところだ。碌な男じゃないぞ、俺は」

ふいっと視線を初めて背けた彼に、私は肩を揺らしてやさしく笑った。



「私こそ、碌な女じゃありませんよ。これで、おあいこです、リカルドさん」

驚いて、見つめてきた彼に、私は再度同じ言葉を繰り返した。




「すきですよ、リカルドさん。貴方の全部が」

自分勝手なのはわかっているの。
でもしょうがないじゃない。すきなんだから。
私をこんな風にしたのは、貴方なんです。
そこまで、私は貴方に毒されているの。


end