それでも君をまもれるか3

(CP:スパ→アン←リカ)






ライフルの整備は欠かさず毎晩やっていることだ。
もうこの相棒に命を何度助けてもらっただろう。
数え切れないほどのそれに、リカルドは軽く息を吐いた。
助けてもらった、それは他者の命を奪い背負ったということだ。





それでも君を、まもれるか





別に初めてひとの命を奪った時に、腹の底から湧き上がってくる吐き気に襲われたこともない。
あまりにも繊細すぎる人間や慣れていない人間が殺しという行いをしたときに、よくあることだ。
だがリカルドにはそんなことは全くなかった。
むしろ、どこか懐かしい感触がしたとさえ思った。
ああ、前世でも己はひとの命を奪っていたのかと。気付いたときには幾つもの戦場を越えて手は薄汚れたものに見えた。
ああ、まただ。自分はこういう定めから逃れられないのかと思い呪った。
前世ではきれいで澄んだ人間の魂と汚れた人間との魂を見分けて選んでいたが、今度は選んでられないのだと。
目の前に立ちはだかったひとを、踏み越えて行かなくてはならない。それは今日共に戦場を乗り越えたひとかもしれない。昨日命を助けてもらったひとかもしれない。
だが、立場が違えばそんなことなど関係ない。それが傭兵という仕事だった。

「・・・・・リカルドさん?」

もう夜もだいぶ更けた時間だった。
珍しくなかなか寝付けなかったリカルドは、小さく明りのついた宿のカウンター前の机で、ライフルの整備ついでに酒を煽っていた。
女性陣の部屋からアンジュが下りてくる。肩にカーディガンを羽織っている様子では、さっきまで寝ていたのだろう。
ライフルを撫でていたリカルドは視線をアンジュに向けると眉を顰めた。

「どうした、セレーナ」

「リカルドさんこそ、その言葉そのままお返ししますよ」

グラスを中の氷が音を立てることで鳴らす。
アンジュはリカルドの隣にある椅子に座るとほっと息を吐いた。

「今日は大変でしたね」

「ああ」

「スパーダ君、はりきっちゃって」

「意地だけで出たに過ぎんだろう」

「あら、気付いてたんですか?」

「・・・・・ふん」

驚いた、と言わんばかりに目を丸くするアンジュを横目に、リカルドはグラスに口をつけた。
アンジュはそんなリカルドから視線を外すと自分の手を見つめた。

「もしかして、彼のきもちにも?」

「ガキはわかりやすい」

「・・・・・・・・・・・・」

黙り込んだ二人の間に、リカルドがグラスを揺らす音が響く。
夜は静かだ。それに溶け込むような、ひっそりとした声でアンジュは不安に瞳を揺らめかせて呟いた。

「・・・・・私のきもちまで、わかってらっしゃるのかしら・・・」

ぽつりと呟かれた言葉に、リカルドは首を傾げた。
アンジュの言葉の意図が掴めなかったようだ。

「なんだ、ベルフォルマじゃないのか?」

「わからないんです、自分のきもちが全く」

「・・・・・・・・・・」

「自分のこころの中に霧がかすみがかったみたいですっきりしなくて・・・」

「・・・・俺は俺の仕事をするだけだ」

「貴方が私の前に出て戦うのにも、戸惑うんです。貴方は私が頼んだことをしているだけなのに」

そんな言葉を言われると思っていなかったのだろう。今度はリカルドが目を丸くしてアンジュを見つめる番だった。
それが可笑しかったのか、自分の発言に笑ったのか、どちらかわかりはしなかったが、アンジュはくすりと笑うと言った。

「全く・・・ダメですね」

「・・・・俺は選べない、選ぶ権利は俺には無い。選ぶことが出来るのは、雇い主であるセレーナだけだ」

「・・・?何を選ぶというのですか?」

「・・・・・・・・」

だが、もし君がアイツではなく自分を選んだとしたら。
おそらく自分は、君を守れない。
仕事と私情を分けるほど、自分がうまくできているとは思えない。
おそらく自分は、君をまもる。命に代えてでも。
こんな感情を抱えたままで、それでも君をまもれるか。
自分は選べる位置にいないのだというのに。
君を、果たして選べるだろうか。




end