そのいらないまでのやさしさが、アンタにとって。




【願わくば】




アンタの優しさがアンタにとって、プラスでありますように






「なんだ、起きていたのか」

真っ暗な部屋の中、外に出かけていたリカルドが帰ってきた。
このおっさんが夜どっかに出てくのはいまに始まったことじゃないし、こうやってオレが夜眠らずに真っ暗な部屋の中窓を眺めてるのも、いまに始まったことじゃない。
今夜はオレとリカルドが同室だ。正確には、本当はリカルドがひとりこの部屋で眠るはずだったのだがオレが押しかけた。
宿で二人一部屋ということだったのだが、女性陣は三人で一部屋にすると言い、オレとルカが同室だったのだが。

(・・・・・・・ひとりでいい、なんて、)

今オレたちはマムートにいる。

(兄貴、目の前で死んだ、のに)

このおっさんはオレたちを裏切った。自分の、前世での兄を確かめるために。
そして、オズバルトによって、殺された。
そんなことがあって泊まった宿で、このおっさんはひとりでいいと言い出した。
確かに置いてきちまったルカに悪いとか思わないわけじゃねぇけど・・・

「聞いているのか?ベルフォルマ」

返事をしないで月を睨んでたら、不機嫌そうにおっさんが聞いてきた。
ああ、聞いてるよ。

「ああ・・・聞いてるよ」

「寒くないのか?そろそろ寝ろ、今夜は冷える」

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・おい、ベルフォルマ」

「なんで、泣かねぇの」

口から出た言葉は疑問系にもならなかった。
おっさんは息を飲むこともなく、静かにオレの声を聞いた。溜息が聞こえる。
ぎしり、と隣のベッドが軋む音がした。視線をそっちへ向けるとリカルドがベッドに座りこんでこっちを見ていた。
多分おっさんからはオレの顔は月明かりが逆光となっていて、よく見えないはずだ。
良かった、窓際のベッドを選んで。ここだと、どんな顔してもアイツに見えることはまずねぇはずだ。

「なんで、泣かねぇの」

また同じ質問をした。今度は、目を見つめて言ってやった。
きれいな青の瞳。海の色。それが、いまはとてつもなく冷たく感じられた。
温度が、無い。ぬくもり、が。

「泣いて、なんになる」

「・・・・・・」

「兄者が帰ってくるわけでもないだろう」

「・・・・屁理屈だ」

「ガキにはわかるまい」

「大人だから泣かねぇの?この今いるメンバーん中で、一番大人だから?」

「・・・早く寝ろ」

「大人ってのは、そういうトコ面倒くせぇ。そういうのは、大人らしいとは言わねえと思うぜ」

「・・・・・・・」

ブランケットを肩から羽織って、ベッドから降りる。
ベッドに座るリカルドはいつもと違ってオレを少し見上げるかたちとなった。
見開くでも、目を細めるわけでもなく、オレを見る冷めた目が気に食わなかった。
畜生、なんでそんなに。

(感情の無い、目・・・)

「どうして欲しいんだ、俺に」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・」

「なんで、泣かねんだ・・・」

「ベル「なんで、そんな感情の無い、目・・・」

「・・・・・・・・・」

「辛いんなら、泣けばいいだろ・・・泣き喚いて、崩れればいいじゃねぇか・・・っ!」

「・・・・・ベルフォルマ」

「なんだよ・・・!ひとり大人ぶりやがって!泣かねぇようにしてるお前が一番子供じゃねぇか!みんな、心配してんのに・・・っ」

「ベルフォルマ」

吐き喚いていたオレを止めて、リカルドはオレの目を見つめたあとゆっくりとオレの身体を抱きしめた。
額を俺の肩ごしに押し付けて、そんで低く、小さく言いやがったんだ。

「俺が泣いてはお前たちが困るだろう・・・」

「ンだよ・・・ガキは好かねぇんじゃなかったのかよ・・・」

「・・・・そうだな」

「アンタさ、言ってることとやってることが違うんだよ。このお節介」

「世話がかかるお前たちがいけない」

「てめぇこそ」

「・・・・・・・ひとの死など、厭きるほど見てきた・・・見届けてきたというのにな」

「・・・・・」

「今回ばかりは整理がなかなかつかん」

「別に・・・無理矢理整理しようとなんてしなくたっていいだろ・・・」

「・・・・・・・・?」

どういうことだ、と言わんばかりの疑問の浮かんだ顔を上げるリカルドに薄く笑った。
こいつの、「俺が泣いてはみんなが困る」という思いやりのやさしさが。

(ちっくしょ・・・やっぱすきだ)

ゆっくりと小さく額に口付けを落として。

「整理がつかねぇから、泣くんだろ」

泣きそうな顔を、またオレの肩ごしに額を押し付けることで隠して。






願わくば、

アンタのその優しさがアンタにとって、プラスでありますように。




end

******************************
日記でやった創作意欲もりもりこバトムのひとつ「願わくば」でリカスパ。
ガードル死んだあとのお話。なんで泣かないのか、泣かないのが大人なのか、そうじゃないだろと悶々するスパダ。
そのやさしさがアンタにとって、これから先も、プラスになりますようにと願って。