崩れ始めた天空城から、オレたちはただひとりルカを残して逃げてきた。
様々な思いを胸に抱えたまま。





【廃れた町の真ん中で】



佇む君は、果たして泣いていたのだろうか。






「・・・・・・・・・・」

丁度近くにイリアの村があるからと、オレたちは何か恐怖に追われるかのように村へ駆け込んだ。
どうやって村まで来たのか覚えていない。覚えているのは、マティウスに明かされた自分たちの過去にしでかした過ち。
自分たちの過去、というには言い方が正しくないかもしれない。
なんたってオレは前世が聖剣デュランダルであったという事実があるだけで、オレはいまスパーダ・ベルフォルマという、ひとだからだ。
オレの過去の過ちではない。オレの前世の過ちだ。しかも、それはオレだけのじゃない。
窓を眺めていると、見慣れた赤が目に入ってゆっくりと扉を開けて外へ出た。慌てて駆け寄るなんて軽率な行動はしない。
オレといっしょに過ちを犯したひと。

(・・・・・・・・・・・・・・イリア)

オレと共に、恋人でありオレ聖剣デュランダルの使い手であったアスラ・・・―ルカを裏切ったイナンナ・・・イリアは、呆然と遠くを眺めていた。
時々空を仰いでは、力の無い瞳をただどこかに向けていた。イナンナとは違う、あかのひとみ。
イナンナは綺麗な新緑の眼をしていた。それは前世では優しく細められ、剣であったオレには注がれずアスラへと常に向けられていたものだ。
現世では、前世のような潤いを帯びた穏やかな瞳ではなく、情熱的なまでのそれはもう真っ赤なルビィのようなそれだった。
キッとした目つきは前世がイナンナだったとはまるで想像もつかせず、イリアという人物が個としてあるのだと仲間の中で一番感じられた。

「・・・・・・イリア」

呟いた名前は本人には届きはしない。

(・・・・・・・?)

イリアが顔を―――正確には目元を、手の甲で腕で擦っているのが目に入った。
たったの15歳の少女だ。まだ、子供なんだ。オレも言えた義理ではないが、ルカとイリアよりはまだまだ上にいるつもりだ。
15歳と17歳では、どうにも大きな差が出来ると、オレは、思う。

(泣きゃいいのに・・・)

素直ではない性格の彼女のことだ。絶対に、ひとの前では泣きはしない。
目元を擦っているのが見えただけで、その原因である涙が見えたわけじゃない。
だから、イリアが泣いている、なんてのはオレの思い込みだ。もしかしたら目にごみが入っただけかもしれない、けど。
(でも、泣いていたのかもしれない、けど。)

(前世でも、現世でも、)

お前が涙を流すのは、ルカ(アスラ)のためだけじゃねえか。





廃れた町の真ん中で、

佇む君は、果たして泣いていたのだろうか。




end

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日記でやった創作意欲もりもりこバトムのひとつ「廃れた町の真ん中で」でスパ→イリ→ルカ。
天空城から逃げ出したあとの話。涙を流していたか確認なんてしない。
それができるのは、オレじゃない。